長 い間、タタミに三つ折りのマットを敷いて、敷き布団で寝ていた。いわゆる万年床スタイル。タタミ一間の狭い部屋に住んでいたこともあったから、部屋を狭く しないために、毎日布団を上げ下ろししていた。別にそれで不便だと思ったことはなかったし、特に問題なく暮らしていたのだが、妻と二人暮らしをするように なって、同じような布団の上げ下ろし生活をしていたら、これが見事に、敷き布団の下のマットがカビだした。マンションの立地とか、そういうことがあったと 思う。どうしてかは分からないが、そこはものすごく湿気の溜まる部屋(マンション)で、冬の結露もひどかったし、クローゼットにつり下げている洋服も、な んとなくじんわりした感じがあった。住んでいるときには分からなかったが、引っ越しをするときにエアコンを移動させたら、業者さんに「中がものすごく黴び てますよ」と言われてクリーニングをすすめられたり、とかくまあ、湿気の溜まる部屋だった。湿気というのは人の精神にも影響するものらしくて、今のマン ションに引っ越してピタリとそういうことは無くなったのだけど、前のマンションに住んでいたときは、とにかく落ち着かないというか、部屋にいるとなんだか どんよりするというか、落ち着かなくて妙に外出をしていたのだけど、あれは湿気のせいだったのかなあと今にして思う。以前のマンションだけじゃなくて、ほ かの人の家に行っても分かったのだけど、そこは古民家と言われる建物で、リノベーションをして、物凄く見た目も綺麗で、タタミも張り替え、囲炉裏もあっ て、コージーな居心地のいい空間のはずなのに、中に入るとどうしても落ち着かない。話を聞いてみると、物凄く湿気の溜まる家だということで、なんとなく部 屋にいると、ヌマの底にいるような感じがあって、落ち着かないのはそのせいかなあと思ったりした。昔のマンションも、マンションの目の前にヌマのようなた め池があったから、あの湿気はそのせいもあったのかもしれなかった。
閑話休題。ずいぶん話がそれてしまったけど、ベッドの話だった。
そ れで、ぼくたちはマンションを引っ越ししたときに、布団のマットが毎回(取り替えて気をつけていてもすぐにカビた)黴びるのに嫌気がさして、カビの来ない 寝床を作ろうという話になった。万年床でもベッドでもどちらでも良かったけど、とにかくカビにくい寝床が欲しい。それで、布団屋に話を聞きに行ったり、イ ンターネットで調べたり、あんまり寝床とカビに関する書物のたぐいは無かったけど、そうして調べた結果、ぼくたちがしていた、フローリングにマット直置き で、敷き布団という形が、湿気という意味では「最悪」で、特に、強いているマットが通気性の悪いポリウレタンだったりすると、ひどいときには一日でも床上 げを忘れただけでカビます、という話だった。そう言われてみると、まさにぼくたちの寝方はそのとおりで、マットもバッチリポリウレタンだったし、フローリ ングに直敷きだったし、そりゃあ黴びるのも仕方がないかなあと妙に納得した。ぼくが一人暮らしをしていたときは、フローリングじゃなくてタタミの上に敷い ていたから、まだましだったらしい。妻は一人暮らしのときベッド生活だったし。
布団の上げ下ろしは苦ではないと思っ ていたけれど、やっぱりそうこう考えると、ベッドを使って寝る方が湿気的にもいいみたいだったし、引っ越してちょっとだけ部屋にゆとりが出来たので(引っ 越しを機にいらないものをいろいろ捨てた)だったらベッドを買ってもいいかなと、ちょっとだけ心が揺らいだ。湿気にくい、というとなんとなくイメージする のはすのこベッドで、すのこだったら黴びないのかな、と思ったら、布団屋に聞いてみると、すのこでもたまにマットは干してやらないと、すのこは接地面が一 定なので、そこから黴びてくる、という話で、すのこも万全じゃないんだなというのがなんとなく分かった。
もちろん、 多少黴びる可能性があるといっても、フローリングにマット直敷きよりははるかにいいわけで、すのこベッドを買っても構わなかったんだけど、なんとなく「こ れ」というベッドに出会わなかったのもあって、なんとなくそのままになっていたとき、知ったのが「ウッドスプリング」というベッドだった。ウッドスプリン グのベッドは知っていたと言えば知っていたけど、値段が高いこともあって(ヒュラーネストとか)ほとんど気にしていなかったんだけど、もう少しリーズナブ ルなモデルもあるらしい。ウッドスプリングベッドというのは、すのこベッドはベッド板がスノコだけど、そこの部分に、しなりのある細い木板が何枚も渡して あって、両端にスプリングがついているという構造になっていて、人間の背骨の凹凸に合わせてベッドがしなるようになっているという構造のベッドだ。木板と 木板の間にはすきまのある構造で、言うなら可動性のあるすのこ、といった感じだろうか。本気で体重のある人が細い木板1本に体重をかけたら折れる可能性が ないとは言わないが、1本1本の木板は、細いけれどしなりがあって丈夫で、そこに体重を分散させてのるわけだから、普通壊れるようなものではない。その基 盤の上に、ラテックスとかそういうマットを敷いて、ベッドパッドを敷いて掛け布団で寝る、という形だ。ぼくが見たのはDORSAL(ドーサル/ドルサル) という会社のベッドだったけど、基盤になる部分のベッドは本当にシンプルというか質実剛健で、よくあるベッドのヘッドセットもついていない(オプションで つけることは出来る)。要するにウッドスプリングの部分に足がついているだけ。言うのならスノコに足がついたようなベッドだから軽いし、スプリングの1本 1本が取り外せるようになっているので、どこから壊れたらその部分だけ取り替えて修理出来るというのも、ぼくの心をくすぐったポイントだった。ぼくはメン テナンスが出来ないものは嫌いなのだ。構造が単純で、メンテナンスしやすいものがぼくの好みで、スノコベッドは黴びてもとりかえられないわけだし。
というわけで、DORSALのウッドスプリングベッドなるものに、ぼくは興味を持った。
布 団屋のおっちゃんがなかなかセールストークの上手な人で、あれこれ話を聞いたのだけど、構造からも分かるように、ウッドスプリングのベッドは、基本は一人 一台使うベッドで、たとえばダブルとかキングサイズを買って、二人で寝るようなものではない。一人一台ずつ、シングル以上の大きさで、使うためのベッドで ある。つまりぼくと妻の二人の寝床をこしらえようと思ったら、ウッドスプリングベッドのシングルのセットが2組必要になってくるのだ。ドルサルのベッド単 体なら買えなくもないかなと思う金額だったけれど、それが2台となると、かなりの出費である。しかもうちには敷き布団しかなかったから、基盤のベッドだけ でなく、ベッドと、マットと、ベッドパッドと、さらにはカバーや、敷きパッドまで必要ということで、値段はどんどん膨らんだ。
し かし、布団屋のおっちゃんの話によると、ウッドスプリングのベッドが、黴びにはいちばんいいという。スプリングが入っているから、マットが常に定位置で くっついているということもなく、時にスキマが出来るので湿気が抜けやすいし、基本的にはベッドの下に物を置かず、空にしておけば、湿気はたまらないし、 少なくとも布団屋のおっちゃんが商ってきた範囲で、ウッドスプリングのベッドが黴びたという話を聞いたことはない。しかも、ウッドスプリングのマットはラ テックスというマットとセットで使うのをおすすめしているが、このラテックスというのはゴムの一種であるが、通気性にすぐれており、綿やなにかの敷き布団 とは違って、日に当てて干す必要がない。というか、紫外線に当たると劣化する素材なので、日にはあまり当てない方がいいくらいだという。
シュ フの方なら分かると思うけれど、布団の何がめんどくさいって、布団を干すことが面倒くさいわけで、日々の布団の上げ下げは大して苦ではないのだが、それを ベランダまで引きずっていって干すとなると、これはなかなかおっくうな仕事である。うちでは二人とも仕事をしているので、布団乾燥機でしのいだりしていた けれど、それはそれで万全ではないし、まあだから布団にカビがきたわけだけど、わざわざ敷き布団を干したりしなくていいというのは、話としても結構魅力 だった。ベッドマットも1年に1回洗う程度でよく、直接肌に触れる敷きパッドだけ洗えば良く、布団を干すのも、掛け布団だけでいい、という。
メンテナンスの単純さに、ぼくたちの心がぐらりと動いた。
い ままでフローリングにマットと敷き布団の直敷きでしのいできたんだし、どうせ買うのならケチケチしないで、いいものをそろえた方がいいんじゃない? とい うことで、試し寝とか、幾度かの下見を経たのち、ぼくたちはドルサルのベッドセットを2組買うことに決めたのだった。ベッドの構成は布団屋のおっちゃんに すすめられるがまま、ある意味ではいいカモの客でした。
ドルサル ウッドスプリングベッド シングルサイズ
ドルサル ラテックスマット11センチ シングルサイズ
ベラベック ベッドパッド(英国羊毛) シングルサイズ
ニットボックスシーズ シングルサイズ
4重オーガニック敷きパッド シングルサイズ
すべてこれ×2です。ずいぶん買ったもんだなあ。
金額は「ベッドにこの値段!」と目を?くような価格だったけど、布団屋のおっちゃんの話は納得できるものだったし、品質も良い物だったから、納得の出来る買い物だった。
で も、当時も「高いなあ」と思いながらの買い物だったけど、いまは消費税もアップして、さらに昨今のユーロ高だの軒並みのコストアップだのでさらに値段が上 がるみたいだから、当時買ったのはそれなりにいい決断だったのかもしれない。6月からドルサルのベッドは値上がりするようなので、お早めにといまさら言っ ても間に合わないかもしれないけど。
で、ドルサルのベッドを買ってどうだったかというと。
これが非常に快適です(笑)。それ以上言うことはありません。
毎 日布団を上げ下ろししなくていいのは楽は楽だし、何より布団を干さなくていいというのは精神衛生的にも非常に楽だ。日々の布団を干す手間を考えたら多少の 投資をしてももとはとれるんじゃないかと思う。このベッドを買ってからぼくたちの寝床に対する不満や無駄な時間や無駄な出費はピタリと無くなった。最初に ドンと投資をしてそれで終わり。ベッドを買ったきり布団屋のおっちゃんにも会ってないし。
もし買おうか悩んでいる方がいたらぜひ背中を押してあげたい。
買っ てまず後悔はないと思う。構成も布団屋のおっちゃんがすすめてくれたとおりで、変に吝嗇ったりしなくてよかった。いいものを買うときは変にせこいことを考 えようとせず、思い切ってそれなりの品質のものをそろえた方が結局は後悔がないというのが、このベッドを買ってぼくたちが学んだことだったかもしれない。 ドルサルのベッドは高い値段を出すだけの価値のある品物だったと思う。
問題は、品質がそれほどでも無いのに、値段だ けが馬鹿高いものが世の中にはたくさん出回っていて、「無駄に高いもの」と「高いけれど本当に価値のあるもの」をどう見分けたらいいのかということなんだ けど。でもそれを見分ける黄金の法則のようなものはないし、買い物というのは本当に難しいもんです。

DORSAL ウッドスプリングベッド+ラテックスマット
ちょっとマットの厚さが違うけどだいたいこんな感じ。