2014年6月1日日曜日
「フランスの子どもは夜泣きをしない」パメラ・ドラッカーマン
「フランスの子どもは夜泣きをしない」パメラ・ドラッカーマンを読んで、非常に感銘を受ける。これ、いいですよ、ぜひ読んで下さい。
タイトルを見れば分かるとおり、育児にまつわる書き物(エッセイとノンフィクションの中間くらい)であることは確かだけど、日本の薄気味悪い育児書エッセイなんかと違って、フランスと英米(日)の比較文化論としても読める含蓄の深い本である。米国人の著者が英国人の夫とフランスに住み、妊娠出産子育てを体験するというのが話の概要なんだけども、育児マニュアルではまったくないし、育児書というのとも違う、一種のフランス人の子育て哲学みたいなものを解き明かしていくような本で、老若男女問わず読むといい本だと思った。ぼくはフランスの子育て礼讃とかそういうつもりはないけれど、これを読むとなぜフランスの出生率が2.0を超え、日本の出生率がこれほど低いのかを理解する一助になる本である。フランスの子育てを礼讃するつもりはないと言ったそばからなんだが、この本を読むかぎり、個人の意識も含めて社会全体のシステムとしてフランスの方が日本よりもはるかにすぐれた子育て制度を造り上げていると感じる。日本(英米)の子育てにもいいところが、と言いたいのはやまやまだが、この出生率の圧倒的な差を見ても、フランスよりも日本の方が圧倒的に子供を生み育てにくい環境にあるのだと言わざるを得ない。それはごたくでも理屈でも間隔でもなく、まさにデータが証明している。
タイトルにもなっている「フランスの子どもは夜泣きをしない」というのは、「どうせ本の吊り文句だろう」となかば馬鹿にして読み始めてみたのだが、本当にフランスの子どもは夜泣きをしないのである! 早ければ生後2ヵ月を過ぎるころから子どもはひとりですくすくと眠り、夜を過ごすのである! はったりと嘘っぱちのコピー文句ではなく、本当に夜泣きをしないのだ! ではどうやって、と聞きたくなるだろうが、それがこの本の白眉であると思うので、ぼくがここに記すことはしない。要するに生後2ヵ月にならないうちから、子どもが夜寝るようにしつける、ということなのだが、詳しい内容についてはぜひ買って読んで「なるほど」と感銘を受けて下さい。
ぼくはこの本を読むまで、フランスで出生率が高いのは、フランスは日本と違って、子どもを生む女性に「母親」という奇妙なレッテルが貼られず子どもが生まれても一人の人間であり続けられる(日本と違って)社会背景とか、母乳を強制されず、無痛分娩も普通で、結婚していないカップルも普通、ましてや「非嫡出児」のような奇妙な制度もない。そして保育所は日本よりもはるかに充実して、母親はすぐに子どもを預けられる。つまり生まれて来た子どもが子どもとして認められ、なおかつ子どもを生む・持つことに対する精神的・肉体的なハードルが低いことが出生率の高さにつながっているのかなあと漠然と思っていた。だが、この本を読むとそうではないのが分かる。そういう文化的な背景も一助にはあるのかもしれないが、そういう漠然・曖昧模糊とした「空気」のようなものではなく、フランスの子育てにはしっかりとした哲学があり、それを支える社会制度がある。それに比べて、日本の子育てはふわふわとした「空気」があるだけで哲学はない。日本にも昔はもっと確固とした子育て哲学があったはずなのにどこへ行ってしまったんだろうなあ。それだけ日本が英米化を完全に果たしたということなんだろうか。今現在の日本の子育て環境を見ていると、日本古来の文化的な義務とか責任とかの悪いところと英米子育ての悪いところだけがドッキングした最悪の状況を作り出しているように思える。
「出産は苦痛を伴わねばならない(苦痛の少ない分娩法は悪である)」「赤ん坊は母乳で育てねばならない」「子供は四六時中乳を欲しがるものである」「夜間の授乳は当たり前」「子供が夜寝ないのは当然」「子供が欲しがるままに菓子を与えよ」「出産後の生活は子供がすべて中心である」「3年は育児に専念せよ」「母親は24時間365日子供と一緒にいなくてはならない」「子供を預けられる場所はないと思え(特に専業主婦の場合は皆無」「保育所争奪戦を覚悟せよ」「子供の安全は親の責任」「子供が泣いたらその瞬間抱き上げよ」「母親は子供を泣かせてはならない」「母親は子供から片時も離れてはならない」「子供の心を傷つけるといけないのできつく叱ってはならない、菓子を与えよ、おしめを代えよ」
そりゃあこれだけ重荷を押しつけられれば子供なんて生みたくないよなあというのがぼくが末端から見ていても思うことである。ぼくの知っている母親という人たちは(世代的に同世代で子供を持っている人が多い)、専業主婦といわれる立場である人であるほど、子育てにぐったり疲れているし、子育てというのがものすごく大変そうで、どうしてなんだろうなあと不思議に思う。日本でも昔はもっとそこらへんに子供が溢れていたわけで、そんなに子育てなんて特別大変なことじゃなかったはずなのに、いつの間にそうなってしまったんだろう。
要するにフランスの子育てはこんな日本みたいじゃないですよというのがこの本の内容です(当たり前か)。
この本を読んで、ぼくがこれまで漠然と日本の子育てに感じていた「何か間違っているんじゃないか」モヤモヤとした違和感が解消されてずいぶんすっきりした。もしぼくが将来親になったときはフランス流で育てたいと思う。
それから、この本を読んでためになったなあと思うのは、子育ての話を通じて、我が身の生活で「ドキリ」とさせられることが多かったということ。つまり、フランスの子育てでは子供に「我慢すること」を教えるのが何より大切とされるんだけど、そういうくだりを読んでいると、ぼくは自分の欲望をきちんとコントロール出来ているだろうかとドキリとさせられる。「子供の欲望は基本的に際限なく増大していくものなので親にとって一番大切なのはその欲望に制限を設け、欲望をコントロール術を身につけさせてあげること」という部分に、我が身を振り返って反省する。ぼくはまったく欲望をコントロール出来ていないからなあ。欲望のおもむくままに生きている我が身。
あとは、
・きちんと時間をかけて食事をとる
・お菓子作りを通じて「我慢する」ことを学ばせる
・制限は親が設けるがその中では自由
・むやみに我慢だけを強要しない(ガス抜きの時間も設ける)
など、日本の夢のような人間論と違って非常に現実的。
ぼくも我が身の生活で欲望に踊らされたり身につまされることがあればこの本をひもといて反省しようと思います。